生食注意
まもなく生食「可」のピセッリとファーヴェがはじまるのだが、あえて書くことにする。というか書かねばならない。それが生産者としての責任だからである。以下のようなことを読解力に問題のあるひとが読むと、「じゃあ出荷しなきゃいいだろ(怒」と思われるかもしれないが、そういう御仁にはけっしてお使いいただきたくない食材であることもたしかである。
ファーヴェのほうが有名だが、ピセッリも、イタリアやフランスではごく若どりのものを生食する。もっとも、ピセッリのほうなどは、生食できるタイミングで収穫したものはあんまりマーケットに出回らず、もっぱら「菜園のおたのしみ」になっているみたいだ。
どちらもとってもおいしい。だが、たくさん食べるものではない。そのあたりはぜひともご注意ねがいたい。ごくごく若どりのものを、とっても新鮮なうちに、ちょっとだけ楽しむのである。フランス語だがふたつばかりリンクしておく。ページの下のほうに、おいしいけど食べすぎちゃダメよ、と書いてある。もうひとつはコチラ。
サヤインゲンやエダマメなんぞは、ほぼ確実に生食不可である。豆にはレクチンという蛋白質が含まれていて、それが消化不良をひきおこす。とりわけインゲンにはPHA(フィトヘマグルチニン)というレクチンがあって、蛋白質だから加熱すれば栄養になるんだが、生だとお腹をこわしかねない。これはサヤインゲンでも程度の差こそあれ同様で、だからこそこのBLOGでもゴリゴリの火の通しの浅いサヤインゲンをさんざっぱら非難してきているのである。
食べものというのは何らかのリスクはつねにあって、ジャガイモの芽にふくまれる毒素ソラニンなんか有名だろう。あるいはホウレンソウはとっても身体にいい野菜だが、シュウ酸というのが含まれているから、あんまりたくさん常食するのはよくないとされている。
ピセッリとファーヴェもそれとおんなじなのである。
そもそも人類の「文明」というものの成立にあたって、火をつかうようになったということが大きいことは誰もが知るところのはず。なのに、昨今はなんでもかんでも生食したがる傾向があるようだ。ビーツ(キオッジャ)なんかはアクがすくないから生食「可」だが、ほんらいはきちんと加熱調理したほうがおいしい野菜である。なのに、WEBにしろ雑誌にしろ、でてくる調理例は生の薄切りばっかり…。生産者としては泣きたくなってくる。
10数年以上まえ、フランスで寿司屋に行くとかならずサーモンの握りがあって、閉口した記憶がある。いまでは日本の寿司屋でもサーモンはあたりまえのようだが、かつて日本ではシャケは生食しなかった。寄生虫の危険があるから、いまでもノルウェー・サーモンとかアトランティック・サーモンのように寄生虫のリスクがないものしか生食しないはずである。寄生虫は冷凍すれば死滅するから、ルイベというのがまことに理にかなった調理法だというのは知っている。でも、オジサンとしては、やっぱり生のシャケは気持ちが悪いと感じる。
ホタルイカなんか論外である。これも寄生虫リスクがあるから、どうしても生食するなら、冷凍モノか、新しいうちに内蔵をきれいに除去しなければならない。平成12年に厚生省(当時)から通達がでている(リンクは農水省)。
淡水魚にしてもおなじである。養殖のニジマス、ヤマメなどは寄生虫リスクがほぼないと言われてはいるが、野生のものについてはやっぱり相応のリスクがあると考えたほうがいいらしい。
自己責任で、その結果について誰にも迷惑をかけないという確信があるなら生食すればいい。それは個人の自由である。だが、おカネをとって、食べものを提供する立場にある人間は、こういった問題についてはどんなに慎重であってもありすぎることはない。
だいたい、「こういう食べかたはしない」という「習慣」は、長い年月をかけて培われてきた「知恵」なのである。それもまた食文化の重要なファクターである。逆にいえば、そういったイレギュラーな食べかたをして「おいしい」と感じるのはどこかおかしいのではあるまいか。食べかたが不適切であるか、味覚がおかしいか…。いや、こと「安全」にかんして言うなら、個人の味覚なんてたいしてアテにならないのである。キノコの食中毒が毎年後をたたないことを考えればわかるだろう。だから、釣ってきたヤマメだかイワナだかを生食でおいしいと得々と喧伝するのは褒められたはなしじゃないどころか、無責任きわまりない行為なのである。
ピセッリとファーヴェにはなしをもどすと、ごく若どりときわめて新鮮であることは、生食のための最低条件である。ファーヴェなんぞはかなり誤解がひろまってしまっているようだが、コリコリ、ポリポリするようじゃアウトである。だいたい、そんなんじゃおいしくない。わざわざ苦労して日本に導入したって、広まるわけないのである。バカバカしいはなしだ。「えっ、こんな若どりじゃ食べるとこなんかほとんどないじゃん」ってくらいじゃないといけない。しかも食べすぎはよくない。たいしたリスクではないが、よくないものはよくないのである。
ちなみに、写真のピセッリは「超」若どりである。ここまで極端に若どりしなくてもいいだろう。もうすこし豆を肥大させていい。これにかんしては、粉っぽくなったら生食不可と考えたらいいだろう。だいたい、粉っぽかったらおいしくないからすぐにわかる。いずれにしても食べすぎないようにしていただきたいものである。あと、サヤがもったいないなどと思わないでいただきたい。キヌサヤじゃないのである。安全上のリスクはないはずだが、キヌサヤ用の品種じゃないんだから、サヤを食べる前提にはない。廃棄率90%くらいの「ぜいたく品」とご理解ねがいたい。
