サヴォイ
サヴォイである。フランス語で"chou vert"あるいは"chou de Milan"、イタリア語は"cavolo verza"またはたんに"verza"。需要がありそうでなさそうな、まきもの屋の野菜のなかでは、ちょっとかわいそうな野菜である。なにしろ、いまの栽培環境だとあまりにもコストがかかりすぎて、市場出荷できない。たんに「まきもの屋」というヘンな屋号の原点である結球野菜として唯一のものというだけの存在になってしまっている。ようするに、なかば意地みたいに、結球野菜の技術を維持するためだけにやっているという感じである。
サヴォイの不幸は、日本の調理現場でなかなか切り刻んでもらえないというところにあるかもしれない。どーしてもあの「縮れ」を目にみえるかたちでつかいたくなっちゃうんだろう。あるいは、日本の一般的なキャベツをつかうのがフツーになっちゃってるというのもあるだろう。日本のキャベツはタイプとしては"chou blanc"の系統から出発して、独自に育種されて発展したものである。で、みなさんもご承知のとおり、"chou blanc"というのはフランスだと「漬物用」ようするにシュークルートくらいにしかつかわないというのがトラディショネルな考え方である。
たとえば『ル・ギド・キュリネール』の「キャベツのブレゼ」の項では、「弱火で2時間ブレゼする」とある。誤植でもなんでもない。それくらい加熱しなければならないのである。「シュー・ファルシ・アンティエ」にいたっては3時間加熱しろという指示である。日本の一般的なキャベツを2時間も加熱したらすっかり溶けてしまって葉脈のスジくらいしかのこらないんじゃないか。そのくらい性質のちがうものなのだ。
「素材の持ち味を生かす」などといってなんでもかんでも生煮えにする傾向があるようだが、こと西洋野菜にかぎって言えば、素材のもつポテンシャルをひきだすには、適切な火入れが必要であって、それは、日本人の一般的な感覚からするとかなりきつい加熱であることが多いと思う。いまどきはなんでもかんでも「生食」志向なのか、まきもの屋もピセッリ・クルーディなんて生食「可」の商品をやっているからうかつに批判はできないが、野菜なんてものはおしなべて加熱調理するのが基本なのである。日本でもかつては生野菜は食べなかったという。生野菜=サラダが普及したのは第二次大戦後、USの影響だという。
ところで、生野菜の代表というか、「まきもの屋」という屋号の由来のひとつであるレタスだが、日本で一般的なものはクリスプヘッドといって、US系である。フランス料理の古典で「レタスのブレゼ」とか「エテュヴェ」がよくでてくるが、こういった調理には"laitue grasse"というタイプがいいとされている。代表的なのが"Sucrine"という品種。ちなみに、ここでの"grasse"は「脂」の意味じゃなくて「肉厚」という意味である。ちょとわからないのは、手元にある2007年版の『ラルース・ガストロノミーク』ではオークリーフ系(feuille de chêne)やロロ・ロッサ、ロロ・ビオンダもこの"laitue grasse"に分類されているような表になっていること。これらは"laitue à couper"ようするに「リーフレタス」というタイプである。
加熱調理にむいたフランスの「正統派」のレタスってのも必要だと思うんだが、いかんせんまだ機は熟していないように感じている。「プティ・ポワ・ア・ラ・フランセーズ」でよくつかうものだから、ウスイマメじゃないヨーロッパ品種のプティ・ポワ、ピセッリの需要が顕在化して、なおかつ採算ベースにのってくれるのがひとつのめやすだろうか。そのくらいビミョーでむずかしい食材のような気がする。そんなわけで、サヴォイより始めよ、と言いたいところなんだが、むずかしい素材なんだろうか、あんまりフィードバックいただけないまま数シーズンすぎちゃったから…。とくに夏サヴォイはじぶんではかなりイイ線いってると思うんだけど、ご案内のしかたが悪いのか、やっぱりこちらの栽培技術の問題なのか、気候風土のせいなのか…。ノーリアクションというか、沈黙ってヘコむんだよね。そもそも訴求力のない野菜なのか…。シャルトルーズなんぞはカレームいわく「アントレ(1)の女王」だというんだけどねぇ。あ、あれは冬の料理か。
- 注1) 「前菜」の意味じゃなくてあくまでも「アントレ」。くわしくは料理史の本を参照のこと。
