Épinard

Épinard: ホウレンソウのことである。写真はぜんかい紹介したLe Guide Clause Vilmorinのホウレンソウのページである。クリックするといつものように拡大するが、こんかいはちょっと大きなサイズにしてみた。でも本文を読むのはむずかしいかも。

フランスやイタリア、USAではホウレンソウはかなりの大株にする。日本では葉柄もふくめてさっとゆでて食べるのが基本だが、大株のホウレンソウでは、葉柄は食べない。葉だけをグダグダになるまでゆでて料理につかう。かの有名なUSマンガでも水夫がホウレンソウのカンヅメを食べてパワーアップするが、ほとんどペースト状に描写されていたのをご記憶だろうか。

日本の青果つまり一般に小売されているホウレンソウは基本的に若どりである。大株になるまえに収穫する。どちらがいいとかということではない。そもそも用途がちがうからなのである。ちなみに、冷凍などの加工用のホウレンソウは大株である。出荷規格がまるっきりちがうのである。

ホウレンソウには東洋種と西洋種がある。在来の日本ホウレンソウはもちろん東洋種である。いま栽培されているもののほとんどは東洋種と西洋種を交配したF1品種である。純系の日本ホウレンソウは秋まきしかできない。ほかの時期にまいても抽苔(トウがたって花が咲くこと)するからである。これを回避するには、晩抽性の品種をかけあわせるのがいちばん手っとりばやい。こうしたことや、品質や食味、栽培上の利便性などいろいろな観点から、いまの日本のF1品種群(ものすごくたくさんの品種がある)がつくりだされているのである。

よく、日本ホウレンソウは剣葉、西洋種は丸葉といわれるが、じつはこれは正確ではない。上に掲げたLe Guide Clause Vilmorinの写真右下にうつっているのは剣葉である。Vilmorinが19世紀に育成した"Viroflay"というホウレンソウがもとになっていると思う。"Viroflay"は剣葉なのである。"Viroflay"は育種素材として日本の種苗メーカーももっている。だから、スーパーにならんでいるホウレンソウが剣葉だからといって、日本ホウレンソウの形質がつよいなんてかならずしも言いきれないのである。

鉄分やビタミンを多くふくむ、栄養面ですぐれた野菜だが、毎日常食すべきものではない。結石の原因となるシュウ酸を多くふくんでいるからである。このシュウ酸、おなじアカザ科の野菜ベトラーヴやブレットとも共通のエグ味の原因でもある。とはいえ、毎日大量に食べるのでもなければあんまり気にするひつようはない。アクも味のうちなのである。どうしても気になるなら、ゆでてからよく水にさらせばいい。むかしのホウレンソウはそうやってアク抜きしたものだ。もっとも、いまのホウレンソウはシュウ酸の含有量がかなり少なくなっている。そういうふうに品種開発されている。

寒い時期のホウレンソウは甘みがつよくなる。光合成によって炭水化物がつくられるのはだれもが知るところだろうが、糖というのはデンプンよりも分子量がちいさい炭水化物である。糖分がおおければ、より低温でも凍結しにくくなる。クルマのラジエータに入れる不凍液も糖の一種であることをかんがえればわかりやすいかもしれない。だから、寒くなってくると、植物体に糖をより多くたくわえるのである。

この、寒い時期に甘くなるという性質をより強調したのが「ちぢみホウレンソウ」である。これの栽培には、専用品種をもちいる。ちなみに、寒い時期に糖度がたかくなりやすいということと、葉のちぢれとはあんまり関係がない。寒いから葉がちぢれ、葉がちぢれているから甘いということではないのだ。育種素材に、このふたつの性質があったということだと思う。F1品種の育種経過はふつう公表されないのだが、まきもの屋は、"Bloomsdale"系が育種素材につかわれているんじゃないかと勝手に推測している。

さて、まきもの屋が農業を営んでいる倉渕はホウレンソウの産地である。たしか農水省の「指定産地」になっていたと思う。市場での評価も高い。倉渕の農業ではもっとも重要な、ブランド化に成功した品目のひとつである。ちなみに、まきもの屋はいまのところホウレンソウは自家用でしかつくっていない。理由はわりとかんたんで、レタスとキャベツを経営の中心に据えているから。その片手間にやって倉渕のホウレンソウ農家の末席にくわえてもらえるレヴェルに逹するのはとうていムリなのである。どんな野菜でもそうだが、つねに高品質をめざすなら、専門性はきわめて高くなる。何も考えずにトラクタで畑を耕してタネをまいたらおいしい野菜ができるというようなものではないのである。

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