スティックブロッコリはブロッコレッティか?

(写真は10月後半のものです) チーメ・ディ・ラーパもご好評のうちに今季終了となり、ありがとうございました。来期は出荷期間を延ばすべくいろいろ検討中なのであるが、やっぱり最大のライヴァルはスティックブロッコリなのである。

いまさら解説申しあげるまでもないと思うんだが、スティックブロッコリはいわゆるブロッコリと「介藍」(カイラン)を交配してつくられた、ちょっと昔からあるけどいちおう「新野菜」。類似品に、ブロッコリと「菜心」(サイシン)を交配したものもある。後者は食べたことがないのでわからないが、前者はよくよく味わってみるとたしかに中国野菜の風味がする。

さて、チーメ・ディ・ラーパの別名がブロッコレット(broccoletto 複数形がブロッコレッティ broccoletti)なわけだが、スティックブロッコリのことも「ブロッコレッティ」と呼ぼうと思えば不可能ではない。だって、そう謳っている有名料理人さんの作品写真を雑誌でみたから。(まきもの屋はインヴォルティーニというかロートロというか、ようは「長いものには巻かれる性格なんで…、とはいえ、件の雑誌のリチェッタには「菜の花」とあって、でも写真はどう見てもスティックブロッコリ。このテのことはよくあるんだが、どうにかならんのだろうか?)

もともとスティックブロッコリは日本の種苗会社が開発したもので、イタリアにまでマーケットがひろがっているかどうかは知らない。

辞書がいつも正しいとはかぎらないんだが、いちおう辞書の定義をひいておくと

broccoletto: infiorescenza della rapa, colta prima che sboccino i fiori; cima di rapa
broccolo: varietà di cavolo dall'infiorescenza carnosa, di colore verde, simile a quella del cavolfiore, ma più tenera e meno compatta

ついでにブロッコロ(ブロッコリ)の定義もひいておいたが、注意したいのは、リチェッテ・レジォナーリなんかでブロッコロがでてくると、Cavolfiore Romanescoを差していることが多い。そう、いま巷にあふれているといってもいいくらいポピュラーになったカリフラワー・ロマネスコ(「ロマネスク」とか「みなれっと」なんて商品名だったりもするようだが)。

どうでもいいことだが、この「ロマネスコ」を「カリフラワーとブロッコリの交配したもの」なんて毒電波を垂れながしている輩がいて、それがいわゆる「野菜のプロ」だったりするから困ったものである。カリフラワーとブロッコリについては下で書くが、かんたんにいって「カリフラワー・ロマネスコ」はそういうカリフラワーの伝統品種がイタリアにある、それだけで充分でしょ? あの形状は交配によるものじゃなくて、突然変異による形質を固定したもの。わかるかな?

脱線ついてでに、フランス語で"brocoli"(フランス語だとcは1つね)というと、いまは日本語のブロッコリとおなじものを指すが、かつてはカリフラワのなかでも晩生、冬どりのもののことだった。もちろん白である。

つまり、いまわれわれが「ブロッコリ」として理解しているものは、イタリア料理、フランス料理のある程度歴史的な文脈においては、ちょっと不自然というか、わかりにくい存在なのである。すくなくとも伝統的なフランス料理でこの野菜がつかわれることはなかったはず。おなじ言葉でカリフラワーのことを表していた可能性がたかい。

イタリアでも似たようなものである。でも、いわゆるブロッコリはたしかにイタリア起源である。このあたり、ブロッコリの伝統的な品種"Calabrese"の名称がヒントになる。「カラブレーゼ」つまり「カラブリアの」ものなのである。もともとは地方野菜だったはず。

じゃあなんでこんなに一般的というかポピュラーになったのか、カラブリア料理なんて知名度低いじゃん、ということになるが、これじつは、「イタリア料理=スパゲティとピザ」という日本人の認識が形成されたのとおなじ根をもっている。そうUSなのである。

20世紀前半まで、相当数のイタリア人が移民としてアメリカ大陸に渡った。そのほとんどは、イタリア南部のひとたちである。ピランデッロのいくつかの短編を題材にしたタヴィアーニ兄弟の映画『カオス』にもそういうエピソードはでてくるし、あるいはコッポラのあの有名な映画を思いだしてもいいだろう。彼ら移民がUSにもたらしたイタリア南部の郷土料理はとうぜんのことながらアメリカの食文化の一部になるとともに、「イタリア料理」というもののイメージが南部のそれに偏る結果となったわけである。

そんなこんなでアメリカが受容したイタリアの食文化のひとつにいわゆるブロッコリがあるというわけ。で、それがすっかり一般化して、日本やフランスにも広まったのである。このBLOGをお読みくださっている好事家諸賢はご存じのとおり、宅配ピザなんてものはイタリアのピッツァとは似て非なるもの、でもいまやフランスでもあたりまえにある、そういうUS由来の食文化なのである。

ついでに言うと、USではチーメ・ディ・ラーパのことは"broccoli raab"というのが一般的なようである。いわゆるスティックブロッコリはどうかというと、種苗会社によるだろうが、"mini broccoli"としているところもある。

さて、たまには「結論」を書いておきたい。チーメ・ディ・ラーパはブロッコレッティである。スティックブロッコリもブロッコレッティと呼んでさしつかえないかもしれない。が、ブロッコレッティはスティックブロッコリのことではない。できそこないの論理学の命題みたいだが、ご理解いただけるだろうか…。


Posted by makimonoya on 20 December, 2009

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