ヴァーナリゼーション
写真は11月はじめに無加温ハウスに種まきしたビーツ(キオッジャ)。無加温だからとうぜん暖房はなし。ビニールハウスといえど夜は冷える(氷点下になる)ので、ゆっくりゆっくり成長している。ハイシーズンなら1ヶ月かからないでこれくらいの大きさになるんだから、倍以上の時間がかかっていることになる。
晩秋にビーツの種まきをするなんて、「常識的」には考えられないことである。いや、世間一般の「常識」からすれば、なんでそんなことを言うのかわかならいだろうけど。まぁ、農業というか蔬菜園芸の「常識」である。
植物とくに野菜のような草本のなかには、低温にさらされると「花芽分化」といって、あとで暖かくなったときに花を咲かせるための準備をはじめるものがある(というか、けっこう種類が多い)。これを「ヴァーナリゼーション」という。英語でもフランス語でも"vernalisation"と書くが、フランス語だと「ヴェルナリザシォン」となる。
もとになった"vernal"という形容詞は「春の」という意味である。"Equinoxe vernale"は「春分」のこと。そう、野菜というか植物は寒い冬になると自身は「春」を準備して待ちこがれているわけ。なんだかちょっと文学的ですな。
チーメ・ディ・ラーパのように花芽を食べる野菜だと、これが起きてくれないと困るわけだが、いっぽうで、キャベツとかブレット(ビエトラ)とか、ポワローのような葉茎菜、あるいはビーツやダイコンのような根菜にしても、花芽そのものができちゃうと、つまり「抽苔」しちゃうと商品にならなくなってしまう。
たとえヴァーナリゼーションが起きていたとしても、それは植物の細胞レヴェルのことだから、花芽そのものができなければいいわけで、あの手この手で回避して、ほんとうならできるわけのない時季の野菜をご提供するべく生産者は努めているわけである。あの手この手といっても、温度管理と品種の使いわけがほとんど。あ、肥培管理も重要か。
写真のビーツ(キオッジャ)も見た目にはわからないけど、内部的には確実にヴァーナリゼーションを起こしている。で、これをキャンセルする方法もないわけじゃないんで、ちょっと試しているところである。いや、なに、ただ温度管理に注意を払うだけである。四六時中つきっきりというわけじゃないから、かなり難しいことなんだけど。
そうは言っても、「自然界」ではあり得ないことをするわけで、そういう意味では野菜というのはなんとも人為的なものなのである。いや、そもそも野菜の草を食用に適するように長い歴史のなかで品種改良してきた結果としていまの種類豊富な野菜があるわけで、なにがなんでも「自然」を信奉するんだったら、そのへんの雑草を食べたほうがよっぽど理屈にあっているのである。プルピエ(スベリヒユ)やエルバ・ステッラあるいはルーコラ・セルヴァチカなんか品種改良はそんなにされていないから、雑草みたいなものである。いっぽうで、牧草(緑肥としても用いられる)なんかは見た目には「草」だけどかなり品種改良がすすんでいるものも多い。
野菜の「旬」というのは教科書的に一律というわけじゃなくて、地域、気候でかなりズレが生じるものである。「身土不二」というコトバがあるけど、その土地の風土と食文化というのは本来は密接にむすびついたものなのである。このあたりはなかなかご理解いただけないようで、ましてや外食産業の「季節感」は暦を1ヶ月くらい前倒ししちゃってたりするからタイヘンである。
こちらもショーバイだから、できるかぎりニーズにお応えするよう努めるわけで、まきもの屋の商品ラインナップには「ほぼ周年」というのがけっこうあるわけ。もう季節なんか関係なく「安定供給」するのが責務みたいになっちゃって、「旬」を感じてもらうことなんかなかなかできなくなっている気がする。
もっとも、あの手この手で出荷期間を長くしているわけだから、そのなかで「いちばんおいしい時季」というのはやっぱりあって、それを「旬」というべきなんだろう。それはきっちりとアピールさせていただこうと思う。
ついでだから書いちゃうと、2010年の春以降になるが、料理人さんの「圃場視察」を随時おうけできるようにしたいと考えている。やっぱり生産現場の気候と風土、そこでどんなふうにして栽培しているのか、そういうことを見ていただく機会はあったほうがいいだろうと思う。とくにサーヴィスの方が同行なさる場合は歓迎したい。お客様に素材もふくめた料理の説明をなさるのはサーヴィスの方なんだから、九官鳥みたくシェフの言葉を録音再生すりゃいいってもんじゃないと思うから。
築地経由でまきもの屋の野菜をお知りいただいた場合は、八百屋さん(仲卸さん)→卸のルートでコンタクトをおとりいただくことになります。産直のお取引先様はもちろん直接で結構です。あと、流通業者さんは必ず築地の卸を通してください。いずれにしても1週間以上は余裕をもってアポをおとり願うことになると思います。それから、生産者、他県の職員さんはご遠慮ねがいます。どうかご了承ください。
こんなふうに、寒くなると「春」のことを考えているわけだから、まきもの屋も「ヴァーナリゼーション」しているのかもしれない。
