リュット・レゾネは栽培方法じゃなくて防除の考え方のはずなんだが
たたみかけるようにアップしますが、これはしばらく前に書いたんだけど、お蔵入りにしていたエントリ。
ワインにかんしてはまるっきりの素人、ましてや「自然派ワイン」についてはまったくの無知なんで、どなたかに教えを乞いたいところであるが、いちいちお取引先様に質問するほどの興味でもないから、BLOGで済ませることにする。どなたか教えてくださいな。
いわゆる「自然派ワイン」では、ブドウの「栽培方法」として「リュット・レゾネ」「ビオロジック」「ビオディナミ」の3つのカテゴリーがあるらしい。
「ビオロジック」biologique と「ビオディナミ」biodynamie (=biodynamique)はまぁ、わかるのである。トータルで栽培方法を規定しているから。が、「リュット・レゾネ」って防除にかんする用語でしかないはずなんだけど。
INRA(国立農学研究所)のサイトから定義を引用させていただくと。
Lutte où les moyens (essentiellement chimiques) de destruction des ravageurs ne sont employés qu'à bon escient, en cas de risque de dépassement du seuil de nuisibilité.
S'oppose à la lutte d'assurance, où les interventions sont déclenchées en fonction d'un calendrier ; préfigure la lutte intégrée.
かいつまんで訳すと「殺虫殺菌手段(化学的なもの)は、有害性の閾値(=作物生産にあたって危機的な病害虫密度のこと)を越えるおそれがある場合にも「適度」にしか用いない防除のこと。防除暦にしたがってなされる保険的防除の反対。総合的防除に先立つ概念」のことである。
日本でいうなら、「減農薬」よりは「低農薬」にちかいだろうか。そういうのをウリにしてる野菜宅配業者さんもいますな。
だから、「リュット・レゾネ」という語は肥料についてはまったくなにも語っていない。肥料までふくめるなら、「アグリキュリュチュール・レゾネ」agriculture raisonée ということになる。
よくわからないのは、なんでことさら「防除」つまり農薬のことばかりクローズアップされちゃうのか、ということである。で、どうして「総合的病害虫防除」(IPM = Integrated pest management、フランス語だとlutte intégrée)じゃないんだろうか?
で「リュット・レゾネ」もふくめて、「自然派ワイン」をお好きな方々は、どうして好まれておられるのだろうか。農薬をつかっていないとおいしいのだろうか?
農薬の使用がワインの味、品質にあたえる影響がどれだけあり得るか、個人的にはいささか疑問に思っている。味に影響するほどの農薬の種類、使用量というものがあるとすれば、それはもはや、「食品」としては不適切なものになる。日本の「食品残留基準」は石橋を叩いて叩いて叩くのに夢中になっちゃった感があるほど厳しいものだが、かりにその10倍、いや100倍甘い基準であっても、味、品質に影響なんてあるんだろうか? もしあるとすれば、そりゃ化学合成農薬の散布液そのものを口にしているのとおなじくらいの濃度じゃないんだろうか? つまり、「リュット・レゾネ」だからおいしい、ということはロジックとしてはあり得ないと思うんだけど。
いえね、フランスの農業現場にくわしいわけじゃないんで断言はできないが、どこぞの国みたいになんでもかんでも高濃度の農薬を散布しちゃうってことはないと思うんだが。
いや、「リュット・レゾネ」を否定したいわけじゃないんである。むしろ、「アグリキュリュチュール・レゾネ」が主流になっていったほうがいいだろうと考えているくらいだ。ただ、防除にかんする語がどうして「栽培方法」のカテゴリとして使われているのか、単純に理解できないと言っているだけなのである。だから教えてくださいな。
ビオについては、まぁ、野菜生産者の実感としても、わからなくはないのである。肥料は味を左右するから。
あのロマコンだってブドウの栽培じたいは事実上、有機栽培というかビオといっていいようなものだと記憶しているんだが。でもロマコンは「自然派ワイン」とは呼びませんよね。
ビオディナミは、フランスの ABマーク(ビオ)の規定では、これも含まれちゃっているというか、ビオディナミックはビオの亜種というか下位区分みたいなもののはずなんだが…。
そうそう、ビオディナミをお好きな方、この本はお読みになられただろうか?
- ハーバード・H・ケプフ『有機農業の栽培技術とその基礎』河野武平、河野一人訳、菜根出版、1999。
タイトルは「有機農業」だが、全面的にビオディナミックについての本。個人的には、読んでいて頭がグラグラした記憶がある。だって、「ハツカダイコンの作付け日の重量への影響」という表に、「花、葉、果実、根」って項目がたっているんだから。ハツカダイコンの「果実」って? そもそも花を咲かせちゃったら野菜としては利用できないでしょうに? で、これが「月のリズム」の重要性を説明するのにつかわれているのだが、どういうロジックなんだかさっぱり理解できない。そりゃ、むかしは太陰暦をつかっていたわけで、月のリズムと植物の生育に相関関係があるってはなしはけっこうよく聞くから、そのこと自体は否定しないけど。まぁ、こういうのを「似非科学」って言うのかね?
ビオディナミックについてわかりやすくまとめてあるものとしては
- カトリーヌ・ドゥ・シルギューイ『有機農業の基本技術』中村英司訳、八坂書房、1997年。
のなかに、「生命力動農法(バイオダイナミクス農法)」と題したセクションがある。こちらのほうがおすすめだろうか。そんなに頭がグラグラしないですむはず。ほかにもビオディナミックにかんする文献はたくさんあるんで、ここにあげたのを「必読」というつもりもないし、「ビオディナミ」のワインを売る立場にある方々は、こういったものはもちろん読んでおられるんでしょうから、どうでもいいか。
ついでに言うと、アンチ・ビオディナミックなひとのなかには、「ビオディナミック=牛の角(の粉)を畑に撒いたり、月の満ち欠けをどうこういうワケワカラン農法」というような理解をなさっておられるケースもあるようだが、牛角粉なんてのは家畜の血粉や骨粉なんかとおんなじように、ものすごーく昔から使われてきた伝統的な肥料なわけ。それ自体はべつにヘンテコなもんじゃない。たんに昔のやりかたというだけのことである。
