文芸大食

このところぽつぽつとリヨン料理について書かせていただきましたが、コレ、はっきり申しあげて流行りだからです。もちろん、ポリシーをもってリヨン郷土料理を看板に掲げていらっしゃるお店は流行なんてあまり関係ないと思うんですが、とくに地方料理、郷土料理といったことも謳わない、あんまりいい表現じゃありませんが「ごくふつうの」ビストロさんでもリヨン風サラダなどがメニューオンしていたりといった状況ですから、これを流行と呼ばずして何と申せばいいでしょう。

で、群馬の山奥から眺めておりまして、その流行がやや飽和しかかってきたんじゃないか、こういうタイミングで「より本格的」なリヨン料理を素材のレヴェルからお考えになられるお店も増えていらっしゃるんじゃないか。そんなことを思いまして、たとえばシコレ・フリゼ(1)、とかリヨン種のブレットの話題なんぞちょっと書いてみたわけです。ようするに商売上の下心みたいなものですな。で、自分もすっかりリヨン料理な気分になっちゃってタブリエ・ド・サプールに挑戦してみたり…。

が、まきもの屋はガール・ド・リヨン(2)は何度も利用しましたが、リヨン=ペラシュで降りたことは一度もございません。というワケのわからん冗談を以前に書いた記憶がありますけど、ようするにリヨンに行ったことがないんですよ。みなさんご存知のように、ガール・ド・リヨンはパリにある駅でして、リヨンにある駅はリヨン=ペラシュという名前なんですよね。

そんなわけで、リヨン料理についてはよく知らんのです。そう、美食の都リヨンを知らんのです(泣。

じゃあ、郷土料理なら何を知っているかって? 知っているというほどのことはないんですが、トゥーレーヌの料理には親しみを感じております。ワインはシノンの赤が好きですし、川魚ならブロシェよりはサンドルやウナギになじみがあるわけです。有名な料理ですと、ウナギの赤ワイン煮とかですね。夏にトゥーレーヌに行くと魚料理といえばサンドルばっかりのような印象をうけます。肉料理だとやっぱり豚肉のリエットですかね。これは好きでたまーに「おうちフレンチ」します。

リエットといえば、19世紀の文豪バルザックの小説『谷間の百合』の一節が有名です。かんたんに申しあげると、リエットがいかに魅力的な料理かということを延々1ページ以上にわたって滔々と語るんです。ちょっと古い本ですが、辻静雄編著『フランス料理の本 1 オードヴル・スープ』講談社、1981、p.30.で紹介されてます。フランス語の原文はネットで読めますし、日本語訳も本屋さんで入手できると思います。

いまどきはパンにつけるバターのかわりにリエットを突き出しのように出されるお店も多いようですんで、サーヴィスの方がこういうハナシをちょっと頭に入れておかれるのもよろしいかと。

バルザックといえば食にかんする逸話は数知れません。なにしろデュマ、ブリヤ=サヴァラン、ロッシーニの同時代人なんです。そのバルザックの故郷がトゥーレーヌなんですよ。

トゥーレーヌのシノンという町の郊外に生まれた16世紀の作家(本業は医者)フランソワ・ラブレーも食という点では忘れることのできない存在です。主著『ガルガンチュワとパンタグリュエル』をお読みいただくとおわかりのとおり、フランスで「内蔵料理」がかくも好まれるその文化的源流といったものが、これでもかというくらいふんだんに描かれております。

いまどきは文学なんて流行らんのでしょうけど、フランス料理を異国の食「文化」ととらえるのであれば、やっぱり無視できないと思うんですがいかがでしょうか。

ところで、タイトルの「文芸大食」ですけど、みなさんご存知のように、「舌が肥えているひと」のことをフランス語では"gourmet"とはあんまりいいませんで、"gourmand"と言いますよね。この"gourmand"はそもそも「大喰らい」の意ですよね。あるいは"gastronomie"、この語はギリシア語起源ですけど、これも「胃」とか「消化」を意味する"gastro"に「学」をあらわす接尾語がついて成立した語だというのは有名なハナシです。ようするに、フランス語ですと、こういった語は「おいしいものをチミチミ食べる」というよりは、いまどきの表現をつかえば「ガッツリ食う」感じなんですよね。

で、ウチではトゥーレーヌのことを勝手に「文芸大食の地」と呼んでいるわけです。この表現、家人のオリジナルらしいので、再利用はご遠慮くださいね(笑。

  • 注1) リヨン風サラダの話題でどうして"pissenlit"じゃなくシコレ・フリゼに言及したか書いておくべきでしょうな。かんたんに申しあげると、いまのところウチで栽培する予定がないからです。そのときの本文でも「これが本式」とか「正統」という言いかたはしていないつもりですんで。なにしろこのエントリで申しあげているようにリヨン料理については「あまり知らん」のです。それに、安易なダイヨウはいけませんが、絶対というのもないんじゃないかと。読みなおしてみると意図的なミスリードみたいにも思えるんでちょっと反省してますが、あえて放置しておきます。
  • 注2) 東京にそういう名前のレストランさんがあるようですが、ここで話題にしているのはパリの駅です。念のため。
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