イタリア野菜の陥穽
西洋野菜のなかでもイタリアものは目をひくというか、とかく注目されやすいですよね。そのこと自体はまことに結構なことなんですけど、どうも発想というか理解が「おもしろ野菜」的な印象がありまして、なんだかなぁ、という感じもあります。
「おもしろ野菜」的発想、と申しますのは、たんに「イタリア料理で使われる」というところ以上に踏みこんで需要を捉えていないところなんです。そう、十把一絡げに「イタリア料理」なんですから。これってかなり安易な認識なんですよね。
ひとくちに「イタリア料理」と言っても、北部と南部ではかなり違うことを知っているのは、プロの方々をのぞくと、外食好き、イタリア料理好きなひとたちだけですね。一般的にはやっぱり「イタリア料理はイタリア料理」という認識だと思います。ましてや、個別の食材の地域性を意識するなんて、かなりのマニアだけでしょうね。
だから、たとえばプンタとタルディーボがおなじ皿のうえにのっていたとして、違和感をもつなんて人は、一般にはまずいないハズです。いえ、ホントウのところは、いまどきのイタリアでもこの組みあわせはあり得ないとはいいきれないんですけどね(IGPモノに代表される特産野菜ってのは都市部であれば全国レヴェルで流通しちゃってますから)。でも、ラディッキオ・ロッソ・ディ・トレヴィーゾ(=タルディーボ)はヴェネトの野菜、プンタレッレはローマですから、この2種のチコリエがいっしょにあるというのは、やっぱり違和感がなきゃおかしいんですよ。すくなくともプロの方々はそうですよね。
専門誌を読んでいると、イタリア料理とフランス料理では圧倒的にフランスのほうが多いですよね。じっさい、調理師学校の学科構成にしたって、「フランス文学科イタリア分科」みたいな感じのところが多いでしょう。ホテルのダイニングにしろ、街場のレストランにしろ、ある程度の専門性があるお店でいえば、やっぱりフランス料理のほうが数は多いと思います。
ところがですね、統計上は、あるいはクチコミサイトなんかで見ると、イタリア料理店のほうが数が多いことになっています。おわかりのようにスパゲティー屋さん、ピザ屋さんが含まれちゃってるからなんですよ。いえ、スパゲッティやピッツァがイタリア料理じゃないなんて申しあげるつもりはございません。ただね、看板に緑、白、赤を配色しているお店であればどこでも専門性の高いイタリア野菜を使ってもらえるとはかぎらない、そういうことを申しあげたいんですよ。
もちろん、フランス料理でもイタリア野菜は使ってもらえます。というか、イタリア野菜の実際の需要の多くはフランス料理だったりします。これはけっこう重要なポイントです。そもそも伝統的なフランス料理の文脈というかロジックに組みこまれていない食材というのは、悪い言いかたをすれば、しばしば一過性の、目新しいだけのものだったりするんですよ。そういうのって、意味あいとしては、レストランのお客さんへの「特別な食材をつかっている」というアピールが主だったりしますから、流行が去ってしまうと使ってもらえなくなる可能性もあるんです。
具体的に挙げちゃいましょうか。ひところフランス料理でけっこうもてはやされたフィコイド・グラシアル(バラフ、アイスプラント)なんかいい例じゃないかと。もともとフランスの野菜じゃなくて、南アフリカ原産ですけど、フランスの有名シェフがお使いになられたのをきっかけに注目されまして、日本では佐賀大学が栽培方法を確立して広まりました。いまではどこのスーパーでも安売りしてるくらい生産量が増えましたけど、この1年くらいの料理専門誌で使用例を探すのは至難の業でしょう。その前はあんなにもてはやされていたのにねぇ。
イタリア料理にハナシをもどしますと、そこそこ高価格のお店でも、野菜にかんしては和モノというか日本の一般野菜をベースになさっているところは非常に多いんです。が、このことをして、イタリア野菜が手に入らないからだ、国産化すれば使ってもらえる、と思うのは浅薄です。イマドキ、手にはいらない西洋野菜なんてないんですよ。国産がなくても、ほとんどのものは輸入されていますから。有名シェフのなかには、徹底的に輸入野菜にこだわる方もいらっしゃるんです。でも、おそらく多くのお店ではそうはならない。なぜだと思います?
なにか「新野菜」を仕掛けてくるときって、生産サイド、といっても農家よりは農協や公的機関の農業関連部署が主になることが多いようですよね。とくにM県は熱心にやっておられる(わが群馬県はそういうことはいっさい興味がないんでしょうかねぇ。って言うか、まきもの屋にとってはM県はすくなからず脅威です)。ぜひともご留意なさっていただきたいのは、その品目、商品を「専門野菜」と「一般野菜」のどちらで売りたいか、というところです。専門野菜であれば、現状の輸入をリプレイスするのが至上命題になりますね。一般野菜としての普及をめざすのであれば、低コスト化と利用法をふくめた啓発、需要開拓が重要になります。で、このふたつ、そもそも両立しにくいものなんですよ。だいたい、専門と一般って対立概念ですからね。
ですから、イタリア野菜の産地化の取り組みなんてよく耳にしますけど、いろいろ落とし穴といいますか、リスクはありますんで、生産者が「ダマされた」と思わないようにやっていただきたいものです。旗を振る団体職員さんや公務員さんはリスクを負わないでいいから気楽でしょうけど、生産者は生活がかかっていますから。まぁ、安易に甘言にのっちゃうほうにも問題はありますから、当事者はいいんですけど、「陳腐化」による価格の暴落はよそにも迷惑をかける可能性があるってのをお忘れなく。




