ある種の「ー」(長音)が気持ちわるい…(いうまでもなく語学ネタ注意)
ヒトリゴトなんでどなた様も気にしないでくださいね。
そもそも外国語の音をカタカナで正確に表わせるワケがありません。そんなことは百も承知のうえでつぶやいているんです。そのこと自体を議論しはじめたらそれこそタイヘンなことになります。もとフランス語教師としては「綴りのままでいいじゃない」とか「発音記号を覚えりゃいいじゃない」という、教師としてはゼッタイに口にできない本音だってあるんです。いまはもう教師じゃないから言っちゃいますけどね。
理屈じゃなく、たんに個人的な感覚としてどうもなじめないカタカナ表記ってのはあるんです。いえ、個人的なものですから、一般性はないと思います。そのままでいいんだと思いますよ。
何かっていうと、たとえば「プーレ」(poulet = 鶏)、「ブーダン」(boudin = 日本じゃ boudin noir が有名ですけど boudin blanc ってのもありますね)。気持ちはわかるんですよ。フランス語の"ou"の音ってのは日本語の「ウ」とはくらべものにならないくらい強い音なんです。カタカナで「プレ」と書いたのをフツーの日本語として読んでそれをさらにフランス語の綴りになおしたらたぶん"pelet"になっちゃいます。(発音記号で書けばいいんでしょうけど、文字コードの問題があるかもしれないんで)
フランス語もイタリア語もタテマエとしては「アクセント」は音の強さ(大きさ)じゃなくて長さで表現します。日本語は音の高低ですよね。フランス語のアクセントは「リズムグループの最終音節」と決まっています。"Poulet"は2音節で、あえてカタカナで書けば「プ」と「レ」ということになります。あとのほうにアクセントがくるわけですから「プレ-」くらいになるわけです(長音を半角にしたのわかります? )
いま「リズムグループ」という言葉をつかいました。これおおもとは言語学の用語だから一般にはなじみがないかもしれませんね。気になる方は東京外語大のサイトでも見て勉強なさってください。フランス語の発音についてとってもわかりやすく説明してくれています。まぁ、かんたんに言っちゃうと、「一息で言うコトバのまとまり」みたいなものです。
すごく昔のフランス語教材で、この「リズムグループ」に徹底してこだわったものがありまして、昔のものだからカセットテープなんですけど、課のさいしょに会話があるわけです。その会話のあとで、リズムグループだけを抽出して「ダダダダー、ダダダー」みたいな録音がはいっているんです。で、教室の学生はフランス語そのものの発音練習をするまえに、録音にあわせて「ダダダダー、ダダダー」とやるわけです。なかなかシュールな光景ですね。
ちなみに、この方式というのはじつに理にかなったものではあったんですが、この教材の場合はいささかやり過ぎというか、学習者が理解できりゃいいじゃん、という流れになったようで、その後これを全面的に踏襲する教材はなかったようです。それでも、各課の一部をこういうリズムグループの把握にあてている教科書はけっこうつくられました。
で、たとえば"boudin noir"ですけど、たとえばこれだけをリズムグループとしてとらえた場合は「ダダダー」なんですよ。「ブーダン・ノワール」ってやっちゃうと「ダーダ ダー」になっちゃう(さいごの「ル」は子音だけなんで「音節」としては「ノワール」でひとつなんです)。日本語のひらがな、カタカナは一文字一音節というタテマエですから、カタカナ書きはそもそも矛盾があるんです。あるんですけど、それでもねぇ。個人的には気持ちがわるいんです。ホント、個人的な感覚の問題ですから、「プーレ」とか「ブーダン」で平気だったら気にする必要はないと思いますよ。たんにクチコミサイトなんかでこういう表記をみて違和感を感じるというだけのはなしなんですから。
イタリア語の場合は、アクセントは語によって位置がちがいますけど、上に書いたように基本的には長音で表現することは一緒です。イタリア語文法で「リズムグループ」と呼ぶかどうかは知りませんが、フランス語とおんなじような性格はあります。たとえ"trattoria" という語。単独だったらもちろん"ri"にアッチェントがきますんで「トラットリーア」になります。が、"trattoria XXX"みたいな店名だと、これ全体でひとつのリズムグループということになるんで、"XXX"のほうにアッチェントがきます。そうすると前半は「トラットリア」みたいな発音になるわけです。
ただ、イタリア語はフランス語ほど「ダダダダダダダダー」みたいな単調なリズム構造じゃないんで、「ダダダ-ダダダッダーダ」といった感じにはなりますね。このへんはフランス語よりも母音の出現頻度が多いという言語の性格にもよるんだと思います(1)。
このリズムグループ、あえてゆっくり発話する場合なんかは単語単位に分解されちゃったりしますんで、単語ひとつひとつがそれぞれ独立したリズムグループになって、それぞれに長音があらわれちゃったりします。テレビとかラジオの語学講座で、ナチュラルスピードとゆっくり発音するのと両方聞かされたときになんか違和感を感じたことってありませんか? どっか違うような…という。これ、もっぱらリズムグループのとらえかたによるアクセントの変化が原因なんですよね。
フランス語の"poulet"にもどしますと、コレ、日本のフランス語フランス文学業界にも責はあるんですよね。20世紀の文芸批評家に"Georges Poulet"というひとがいまして、「ジョルジュ・プーレ」と表記するのがフツーなんですから。たぶん、上に書いたようにカタカナの「プレ」だと"pelet"みたいに聞こえちゃう、という配慮だったと思います。そのくらい"ou"というのは強い音なんですよね。ちなみに、この"ou"の音はマンガのタコの口にみたいにして響くように発音します。さらに口をすぼめて思いっきり前につきだして、大昔のマンガの「チュー」をするみたいな口にすると"u"の音になります。"Selles-sur-Cher"(セル=シュル=シェール)ってチーズの"sur"の音ですね。
- 注1) イタリア語って促音=ちいさい「ッ」があるんですよね。そういうところが好きです。ちなみに、フランス語では厳密にいうと促音はありません。「バルザック」なんて表記してますけど、たぶん「なんとなく」促音をつかって表記してます。というか、ほんとに厳密にいうと、リズムグループの最後の長音てのはたんに長い音だけじゃなくて「休符」というんですか、瞬間的な無音状態もセットになったりするんですよ。




