決定的な差、あるいは「なんちゃって西洋野菜」からの脱出のために

語学ネタじゃないです。さすがにいささか過ぎたかようにも思うんで、たまには野菜のハナシをします。抽象的になっちゃうと思いますけど。

先日あるところでイタリア産のフィノッキオを味見する機会がありました。"Buonissimo!"のヒトコトです。香り、食感、甘さ、すべてがハイレヴェルでしかもバランスがいい。上質の食材というのはこういうのを言うんだとあらためて実感。

あれにくらべれば、まきもの屋のフェンネル(といってもフルサイズは産直限定ですが)なんか、まだまだです。ミニ・フェンネルもさらにいっそう品質に磨きをかけなきゃいけません。現状じゃなんちゃってだと認めざるを得ません。口惜しいけど素直にそう思います。

いちおうプロ、それも西洋野菜の専門家を自称していますんで、ただ「クヤシー!」ってだけで思考をストップさせるわけにはいきません。何が違うのか、どうすればいいのか考えます。いろいろあるんですよ、品種、土つくり、肥料、水分管理、温度 etc...

日本で西洋野菜を栽培するうえで、気候の違いというのはかなり高いハードルのひとつです。日本は雨季と乾季がヨーロッパと逆なうえに、夏と冬の気温差がケタ違いに大きいんです。イマドキはなかなか便利になりまして、WEBでヨーロッパの天気をかんたんに知ることができますけど、イタリアの冬場の最低気温なんか見るとかならずといっていいほど羨ましく思います。そのくらいおだやかなんですよ。

ようするに栽培環境が違うわけですから、それに適応できる品種が開発されればいいという考えかたもあります。じっさい、いまではすっかり一般野菜として定着したキャベツ、レタス、トマト、そのほかいろんな「元」西洋野菜というのは、かなり日本の気候で栽培しやすく品種改良がなされています。各種苗会社、試験場のブリーダーさんたちの努力の賜物です。

ただ、それを同時に、日本人の味覚にあうように、というのもあるんでしょうけど、たとえばヨーロッパのレタスとかキャベツ、トマトとはまったく別物になっています。一般野菜として考えたときはとってもいいことなんですけど、西洋野菜としてはちょっと具合が悪いんです。味が違いすぎるんですよ。

となると、その野菜を日本の気候に適応させるんじゃなくて、その野菜のもつポテンシャルをきちんとひきだせるような気候にしてやったほうがいい、ということになります。以前にも書きましたけど、雨よけハウス栽培に移行するのはその一環でもあるんです。日照時間と空気中の湿度はどうにもなりませんが、温度、水分についてはある程度は野菜本位で考えてやることができるようになります。

ウチではいわゆる「種とり」=自家採種はほとんどやっていません。これもいま申しあげたことと関係があるんです。種とりをつづけるということは、何代にもわたって同じ土地で栽培するということです。そうすると、やっぱりそこの気候とか土壌に適応しちゃうんですよ。で、長い目でみたら、結局は別物になっちゃう可能性が高いんです。

目標は「現地と同等以上の品質、味」ですから、なにからなにまでフランスなりイタリアに近づけていく、そういう考えかたです。だから、技術的な資料は原書に頼りっぱなしです。日本語でそういう文献がほとんどないという現状もありますけど、とにかくヨーロッパでの栽培方法をきちんと理解して、それをどう倉渕の気候条件のなかであてはめていくかというのが問題になるわけです。

野菜なんてのは何も考えずに種をまいても、いちおうそれっぽいものができることもあります。でも決定的な差がどうしてもあるんですよ。よくこのBLOGで「おもしろ野菜」とか「珍しい野菜」批判をしますけど、ポイントはそこなんです。なんとなく栽培しているだけじゃ、やっぱり「なんちゃって」なんですよ。

最終的にはその「決定的な差」をのりこえたものだけが評価してもらえると思います。こんなハナシがあります。いま国内でも栽培がすこし増えてきたある野菜、ある八百屋さんは原則的に輸入しか扱わないそうです。国産については取引先から「こんなの持ってくるな!」と言われちゃうとか。わかります? それが「決定的な差」なんですよ。「なんちゃって」じゃ使ってもらえないんです。使ってもらえないということは売れないということです。

プロとして西洋野菜を栽培するからには、栽培資料くらいは原書できちんと読むことが最低条件じゃないかと思っています。なーに、たいした語学力は要求されません。大学入試程度の英文読解力があるなら、辞書を引けるようになること、基本的な構文を理解することができるようになれば読めると思います。フランス語やイタリア語の初級って、やたらと動詞の時制にスペースを割いちゃってますけど、技術資料を読むには「現在形」だけでほぼOKなんですよ。

ありゃりゃ、野菜のハナシといいながら、また語学になっちゃいましたね。って言うか、フレンチやイタリアンの料理人さんは語学の勉強をなさっておられるわけです(個人差はかなりあるみたいですけど)。そういうプロの方たちに食材をご提供し、使っていただくわけですから、生産者としても、たとえばイタリア野菜をやるならイタリア語の初歩くらいはやっとかないとマズいと思うんですけどねぇ。「決定的な差」の壁をのりこえるには、まずはそのくらいはしないとねぇ。

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