産地の名前、名前!

以前からその存在は知ってはいたんですよ。で、ある八百屋さんのBLOGで見ちゃったんです。国産の「サンマルツァーノ」を。フツーのひとの感覚からすると「国産カマンベール」みたいなもんでしょうか。

「国産サンマルツァーノ」のスゴいところは、ご本家の Pomodoro di San Marzano dell'agro sarnese-nocerino (DOP) とまるっきり似ていないところです。写真から推察するに Roma タイプの品種ですな。なので、プロの料理人さんが何の疑問もなく「国産サンマルツァーノ」をサン=マルツァーノとしてお買いもとめになられることはあり得ないでしょう。まさか、「日本で栽培すると気候や土壌のちがいで異なった見ためになるんだねぇ」なんて毒電波をひろっちゃったりはしないですよね。

ご本家の正式名称 Pomodoro di San Marzano dell'agro sarnese-nocerino (DOP) をよくご覧いただきたい。DOPなんです。日本語でいうと原産地名称保護をとっているんです。ワインのDOC(フランスならAOC)みたいなもんです。ということは、その産地名をヨソが勝手に名乗ってはいけない、ということです。

有名なケースが「ポートワイン」ですな。いまでは「ポルト」とするほうが多いと思いますけど、ポルトガルの vinho do Porto (DOC)のことを言います。かつては国産の甘口葡萄酒の商品名に「ポートワイン」とつけていましたけど、現在はこのDOCを尊重して「スイートワイン」と名乗っていますね。

で、トマトなんですけど、San Marzano は地名なんです。だから、サルノとノチェーラで生産されているDOP規格にのっとって認証をうけたものだけがこれを名乗ることができるというわけです。それ以外は、たとえおなじ品種、おなじ栽培方法であってもパチモンなんですよ。イタリアではこのタイプのトマトはほかの地域でもたくさんつくられているはずですけど、直接的にSan Marzanoと名乗ってはおりません。だってご本家がDOPですから、ヘタなことをしたら手が後ろにまわるかもしれないし、莫大な賠償金を請求されかねません。

なので、せいぜいが「サン=マルツァーノ・タイプ」くらいしか言えないんと思うんですよね。上の写真右側、去年のウチの「スーパーマルツァーノ」ですけど、これを「サン=マルツァーノ」とは言っていないの、おわかりいただけますよね。わざわざ別の名前(といっても品種名ですけど)にしているわけです。もちろん法的な判断をあおいだわけじゃないので、これだってもしかしたらアウトかもしれないんですよ。でも、コンプライアンスといいますか、DOPを尊重する姿勢だけは示しておかないといけません。

野菜の場合ですと、DOPのほかに、Indicazione geografica protetta (IGP)とIndicazione geografica tipica (IGT)というのもあります。細かいところはいろいろちがうんですけど、ようするに商品の表示にかかわる権利保護がなされているわけです。なので、DOP、IGP、IGTというのがついているものは国産を商品化するにあたっては要注意なわけです。

偶然なんでしょうけど、うまいこといっているのが「タルディーボ」ですね。ご本家はRadicchio Rosso di Treviso IGPです。ぜんぜん違いますね。「タルディーボ」= tardivo というのは「晩生」という意味ですから、これ自体では意味不明なんですけどね。

あんまりうまくいっていなさそうなのが「カステルフランコ」。ご本家はRadicchio Variegato di Castelfranco IGPです。このCastelfrancoがモロに地名なんですよね。だから国産のものを「カステルフランコ」と言って売るのはよくないかもしれません。

イタリア野菜ってのはこういうの多いんですよ、ほかに有名どころは Cipolloto nocerino DOP (ノチェーラ産チポロット)、Pomodorino del Piennolo del Vesuvio DOP (ヴェズーヴィオ産ピエンノロ・ミニトマト)、Pomodoro di Pachino IGP (パキーノ産ミニトマト)あたりでしょうか。フランスですと、Piment d'Espelette AOC (エスペレット産トウガラシ)がとくに有名です。

こうした有名どころは、種苗が一般に流通することはまれです。一般性のたかい品種をつかっていることもあるにはありますけど、その地域で「門外不出」みたいな扱いになっていることが多いですね。

おいおい、まきもの屋は「チポロット」をやっているじゃないかって? ご安心ください。"cipolotto"という語じたいは一般名詞なんです。DOPの対象はその正式名称であり、「ノチェーラ」という地名なんです。だから、まきもの屋のチポロットを「チポロット・ノチェリーノ」と表示したらアウトというわけです。そんなおっかないことできませんがな。

DOP、IGP、IGTといった保護制度は、野菜の場合ですと「青果物」にたいしてのもので、種苗の名称については保護対象となっていないんですよね。なので、San Marzanoという品種のタネはフツーに手にはいります。このあたりがムズかしいんでしょうね。品種名としてはOKだけど、青果物の商品名としてはアウト、ってところが。

日本で西洋野菜を栽培するというのは、本質的には「パチモン」つくりをやっていることなんです。身の程をわきまえなきゃいけません。ご本家にたいする敬意があってこそのものだと思うんですよね。他者を尊重しないというのは、自分が尊重されないということにつながります。ヨソの商品にたいしてぞんざいな扱いをするということは、自分の商品をも貶めることにほかならないんですよ。

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