「茶色いフォン」がわからない

(追記) 誤訳があったのでコッソリ修正しました。凡ミスです。

ようやっと農家らしいBLOGになるかなぁと思っていたんですが、早々にネタを思いつかなくなっちゃいました。でも、何かアップしようと思いまして、おなじみ Le guide culinaire です。ちょっとわからないところがありまして…、どなたかに教えを乞いたいと思っていた部分なんです。

FONDS BRUN OU ESTOUFFADE (Proportions pour 10 litres).

Eléments nutritifs: 6 kilos de jarret de boeuf charnu; 6 kilos de jarret de veau, ou l'équivqlent en parures de veau maigres; une crosse de jambon blanchie; 650 grammes de couennes fraîches, blanchies.
Eléments aromatiques: 650 grammes de carottes; 650 grammes d'oignons; un bouquet composé de : 100 grammes de queues de persil, 10 grammes de thym, 5 grammes de laurier et une gousse d'ail.
Traitement: Désosser les viandes.
Avec les os cassés menu et légèrement colorés au four, les légumees revenus, et 14 litres d'eau, marquer un fonds qui sera cuit lentement, et pendant 12 heures au moins, en maintenant le liquide au même niveau, par additions d'eau bouillante. Faire revenir les chairs des jarrets, coupés en très gros dés; les mouiller avec un peu du fonds préparé; faire tomber à la glace à deux ou trois reprises, puis mouiller avec le reste du fonds.
Porter à l'ébullition; écumer; dégrasser avec soin; laisser étuver lentement jusqu'à cuisson complète; passer à la mousseline et réserver pour l'usage.

Nota. – Lorsqu'un fonds comporte l'emploi d'os quelconques, et surtout d'os de boeuf, nous conseillons de préparer d'abord un fonds avec ces os; de le cuire très doucement pendant 12 ou 15 heures, et s'en servir pour mouiller les viandes.
Nous considérons comme une erreur absolue le fait de faire pincer les éléments des fonds. La pratique indique que les principes osmazomatiques des viandes suffisent pour colorer les fonds: c'est le plus naturel, et le meilleur procédé de coloration. (Le guide culinaire, p.6)

茶色いフォン、エストゥファード(10ℓの分量)

主素材: 骨つき牛スネ肉6kg、仔牛のスネまたは脂身の少ない仔牛の端肉6kg、ブランシールしたハムのスネの部分、生の豚皮をブランシールしたもの650g。
香味素材: ニンジン650g、タマネギ650g、ブーケガルニとしてパセリの枝100g、タイム10g、ローリエ5g、ニンニク1片。
作業: 肉をデゾセする。
骨は細かく割り、オーヴンで軽く焼き色をつける。野菜はルヴニールし、水14ℓで最低12時間、ゆっくりと煮る。沸騰した湯を加えながら常に同じ水位を保つようにすること。
大きなデに切ったスネ肉をルヴニールする。上で用意したフォン少量でムイエし、2〜3回グラセし、それから残りのフォンでムイエする。
沸騰させ、エキュメする。注意深く浮いた脂を取り除く。完全に火が通るまでじっくりとエチュヴェする。ムスリーヌでパッセし、ストックする。

注記; フォンが何らかの骨、とくに牛の骨をつかうものであるときは、まずはその骨でフォンをとることを薦めます。12〜15時間ごく弱火で煮て、肉をムイエするのに使用します。
フォンのすべての材料を「パンセ」するのは絶対に間違いだと思います。フォンに色をつけるには、肉が持つ浸透圧の性質で充分であることは、実践により明かであります。これが色をつけるのにいちばん自然で、最良の方法なのです。

不明点は2箇所。ひとつは作業の最後のほう、「エチュヴェする」と訳したところです。フランス語の"étuver"は少量の油脂や液体で、フタをしてごく弱火で加熱する、日本語にしたら「蒸し煮」となるものですよね。原文"laisser étuver"ってのが気になるんですよ。"laisser"ってのは「放任動詞」といって、「〜するままに放っておく」という意味なんですよね。この動詞のニュアンスを考えたら、「フタをして、完全に火が通るまでじっくりと煮る」ということになると思うんですけど、どうなんでしょう?

もうひとつ、「注記」の「浸透圧の性質」と訳したところ。原文"les principes osmazomatiques des viandes"ですけど、"osmazomatique"なんて単語、フツーの辞書にはでてきません。Le Grand Larousse gastronomiqueだと"osmazôme"という名詞がでていまして、"osmose"(浸透圧)の古い表現となっているんです。"osmazomatique"は明らかに、それの形容詞なのはわかるんですけど、訳してみて、なんか意味がわからんのですよ。

文の意味としては、材料をなんでもかんでもオーヴンで焼き色つけてやるのはよろしくない、そんなことをしなくても、肉の性質によって、ちゃんとフォンは色がつく、ってことなんだと思うんですよね。ただね、香味野菜にしたって、牛スネ肉にしたって、"faire revenir"(油で炒めて焼き色をつける)してるんですよね。骨もさいしょにオーヴンで焼き色をつけています。

"pincer"という語は、TLFiだと"Faire saisir dans un corps gras. "(油脂でセジールする)つまりは焼き色をつけるって意味です。Le Grand Larousse gastronomiqueには、"faire colorer au four certains éléments (os, carcasse, légumes aromatiques), sans apport de corps gras (ou très peu), avant de les mouiller pour réaliser un fond brun"となっておりまして、上の訳文ではカタカナでごまかしちゃいました。

いずれにしても材料に「焼き色」はつけているわけですよね。その作業をしていないのは豚皮とハムのスネの部分だけ。こうなると、当時一般的におこなわれていたルセットを検証しないことには、確信が持てなくなっちゃいます。

で、「浸透圧」なんですよ。思いっきり誤読しちゃってるんでしょうかねぇ。こちとら料理のド素人ですし、ただ読んでいるときは、上でパラフレーズしたような内容に理解して、なーんも疑問に思わなかったんですよね。まぁ、訳ってのはこういう思わぬところでつまづくことが多いんですよ。 Le guide culinaire のもうちょっと先のページ、「ルー」のところなんか、デキストリンやらアミドンやらカゼインやらでてくるんです。言葉としてはわかるんですけど、内容の理解として自分の解釈が正しいかどうか、不安になっちゃったりするんですよね。まぁ、誤読、誤訳ってのはどうしてもついてまわる、100%完璧な解釈、訳ってのは現実的にはあり得ないんですけど、マジメにやるなら、それでも完璧をめざさないといけませんからねぇ。


Posted by makimonoya on 09 April, 2010

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Comments



Osmazôme=「精髄」、「本質」という解釈をどこかで見た気がします。訳書では“エッセンス”としています。
家に帰ってから調べてみます。

Pincerはストレートに(かどうかわからないけれど)“絞ること”としています(柴田書店「エスコフィエ フランス料理」p7)が、これでは意味が通じませんね。

わ - 10 April, 2010 - 00:10:11
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さっそくのご教示ありがとうございます。

例によってロクに読みかえさずにチャッチャと訳してアップしたので、あんまりうまく書けていないんですけど、私の解釈としては、「オスマゾーム」を理解するカギが「パンセ」にあるんじゃないかな、と。原書ではわざわざイタリック体にしていますし。

料理用語としての pincer が「焼き色をつける」意味なのは確かだと思います。ただ、フライパン等で油をひいてやるのか、オーヴンに入れるのかではエライ違いですよね。ラルースのほうの説明がたぶん正解だと思います。

当時、フォンの色をだすために素材をなんでも「パンセ」するのが一般的だった、でも、肉に焼き色をつけているんだから、それで充分にフォンの色は出るんだよ、というのが文意だと思います。ただ、そう解釈したときに、焼き色をつけていない素材が、本文で書きましたように豚皮とジャンボンのスネ、あとはブーケガルニしかないんですよね。それだとちょっと弱いかな、と。

そういう意味では、「絞る」というのも可能性としては考えられるかもしれませんね。ちょっと気になるのは、pincer はもともと「つまむ」、ようするに小さな面積に強い力がかかるイメージなんで、作業といいますか、調理の動作として実際に「絞る」のであれば、フランス語は presser といった語を使うような気がします。

あと、原文のpincer les éléments des fondsのところ、定冠詞複数形を「すべて」を訳したんです。実際、定冠詞複数形にはそういう意味というかニュアンスがありますので。

もちろん、原文では肉はfaire revenirすることになっているんで、オーヴンじゃない、そこのところにポイントを置くかどうか…

「オスマゾーム」のほうは、フォンの色の話ですから、単純に、焼き色をつけた肉から色が煮汁にでるということじゃないかと思うんですが。ちなみに、「肉の風味」という意味もこの語にはあるようです。

エントリをアップしてから思ったんですけど、浸透「圧」ってのがいけないような。現代語のosmoseは液体中に(膜を通りぬけて)物質が拡散する現象のことなんですが、そうなるとわかりやすい日本語がないんですよね。もちろん、私の解釈にも不安がありますんで、ほかの可能性も検討してみないと。

「訳」ってのはいつもそうなんですけど、マジメにやると、そこそこ資料が必要になるんですね。読んでいるときは気にもしなかった問題があとからでてくるんです。この本の場合ですと、すくなくともフランス語の辞書は「リトレ」、あと「19世紀ラルース」大百科事典と、19世紀後半から20世紀前半までの主だった料理書はときおり参照する必要がありますね。「リトレ」は持っているんですけど、あとはないんで、いまのところこれが限界です。

makimonoya - 10 April, 2010 - 00:54:26
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追加です。気になりだすと止まらない性格なので…。

TLFiでは、osmazôme は "Substance azotée sapide, d'un brun rougeâtre, contenue principalement dans la viande rouge et la viande noire. "と定義されています。

「風味のある窒素を含む物質で、赤みがかった茶色、おもに赤い肉と黒い肉に含まれる」という意味です。

この語釈をそのまま採用するなら、Le guide culinaire の文章は「フォンに色をつけるには、肉に含まれるオスマゾームによるはたらきで充分である」くらいの訳にして、「オスマゾーム」に訳注をつけるのが「落しどころ」かもしれません。

makimonoya - 10 April, 2010 - 01:47:25
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「フランス料理の歴史」(学習研究社)92pに、“オズマゾームを求めて:科学と錬金術の巧妙な混合”として項が割かれています。タイトルが示す通り「オズマゾーム」の概念は混沌としておりまして、要約することも容易ではありませんが、典拠はかなり詳細に示されております。
この本の原書、HISTOIRE DE LA CUISINE ET DES CUISINIERSは残念ながら持っておりませんので、手に入れる必要があるかもしれません。

わ - 10 April, 2010 - 02:02:09
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おおっ! ありがとうございます。

やっぱりそちら系の概念でしたか。19世紀の「科学」って現代の常識からかなり遠いところにあるんで、もしかしたらと思っていましたが。

いや、面白いんで夢中になってしまいました。多謝。

makimonoya - 10 April, 2010 - 02:16:49
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