レタスのはなし
まえに書いた文章の再録です。
レタスは和名「ちしゃ」、漢字で書くと萵苣であるが、語源は「乳草」(ちちくさ)だそうな。畑でレタスを収穫するとき、切りくちから白い汁がでる。これが名前の由来というわけだ。イタリア語では"lattuga"(ラットゥーガ)、フランス語では"laitue"(レチュ)であり、それぞれの語源は"latte"(ラッテ)、"lait"(レ)である。カフェ・ラッテやカフェ・オ・レで知られているように、ミルクのことである。「チシャ」という和名は、明治のころに外国語から直訳したというわけではない。掻きチシャという種類が平安時代から栽培されていたというはなしである。日本へは中国経由ではいってきたのだろうから、洋の東西でまったくおなじ発想なのもうなずける。
その、レタスの乳液だが、白いのはごくわずかな時間で、すぐに赤茶けてしまう。乳液の主成分はポリフェノールで、空気にふれることで酸化して色がかわるのである。もちろんまったく害はない。ワインやチョコレートはポリフェノールをたくさんふくんでいるという理由で人気があるくらいだ。だが、レタスの変色した乳液はどうしようもなくきたならしく、そんなものが切りくちにのこっていようものなら、「新鮮ではない」という烙印をおされてしまう。そんなわけで、出荷のときには、切りくちをきれいに洗ってやらなければならない。
よく、よいレタスのみわけかたとして、「かたく巻きすぎていない、ふわりとしたもの」とか、切りくちが大きすぎないもの、などといわれている。前者については、プロの目利きでもなければ加減がわかりにくいようだ。結論からいってしまうと、一枚ずつ無理なくはがせるくらいがめやすである。ただ、これは老化のぐあいをみるうえでのめやすのひとつでしかないのである。結球野菜はみんなそうだが、葉数型と葉重型というふたつの結球プロセスがあって品種や条件によって異なる。葉数型というのは結球の初期段階からあるていどの密度で巻いている玉が大きくなっていくタイプ、葉重型はさいしょはスカスカの大きめの玉ができてだんだんと内部の葉の密度がたかまっていくタイプである。現在主流の品種はほとんどが中間型といって両方の性質をもっている。ばあいによってはかんぜんに葉数型の結球プロセスになるから、かなり若い株でも、さわってみるとちょっと固いかんじがすることもある。もちろん、こういうばあいは固いといってもまったく品質に問題はない。問題は株の「老化」なのである。あるいはタテ半分に切って、葉と葉のあいだに数ミリの隙間があればじゅうぶん若いといっていいのだが、カットレタスというのは個人的にはあまり好きではないので、みわけかたとしてもおすすめしたくない。
切りくちの大きさというのも、老化のめやすである。玉があまり大きくないのに切りくちがやけに大きいというのは、たしかによろしくない。ただ、大玉をねらえば当然ながら切りくちも大きいし、なによりこれは品種の差がはげしい。種苗会社のカタログでは、切りくちが小さいというのは重要なセールスポイントのひとつなのである。だから、切りくちの大きさというのはあまりあてにはならないといってもいいかもしれない。
けっきょくのところおいしいレタスというのは、適度に若く、とにかく新鮮なものである。栽培方法によっても味はかわってくるようだが、消費者の立場からいえば、信頼できる店で、信頼できる産地、生産者のものを買うにかぎるということだろうか。もちろん、冷蔵庫に何日も放りこんでおかないで、なるべくはやく食べていただきたい。
ところで、レタスというとクリスプヘッドいわゆる玉レタスのことをさすのは日本だけである。クリスプヘッドが発達したのはアメリカ合衆国だが、それでもリーフレタスやロメインなども多く栽培されているようだ。ヨーロッパでは、玉レタスはほとんどみかけない。おなじ結球レタスでも、バターヘッドが主流である。これはようするにサラダ菜である。サラダ菜というのは日本では結球まえに若どりするのだが、すこし待っていると結球するのである。緑ばかりでなく、サニーのように赤いのもある。リーフレタスもじつにたくさんの種類がある。代表的なものだけでも、"Waldman's Dark Green"タイプ(日本ではこれがグリーンリーフやグリーンカールというなまえになっている)、オークリーフ(赤と緑がある)、ロロ・ロッサ(ロロ・ビオンダという緑のものもある)などなど。ちなみに、サニーというのはプライズヘッドというアメリカの品種をもとに日本で独自に発達したもの。欧米でサニーレタスなどといってもまず通じないだろう。それから、ロメインにも赤い品種はある。そのほか、焼き肉でつかうサンチュは掻きチシャの一種だし、山くらげといっているものはステムレタス(茎チシャ)という種類である。じつにバラエティゆたかだが、どんなに見ためがちがっても、学名は"Lactuca Sativa"ひとつなのである。つまりみんなおなじ植物というわけ。




